2017年8月22日

実は、英語は読むのが難しい

高校のとき、私は英語が得意だった。

しかし、大学院に入って少し経った頃には、英語はちょっとした苦手意識になってしまっていた。

特別なことはない。
受験英語は得意だったが生きた英語は苦手だっただけのこと。

今と違って、当時はまだネット上の情報や機会は十分でなく、自分は21歳まで海外に行ったことすらなかった。読み書きは受験英語力でできても、聴く話すはとても弱かった。日本人にありがちなパターンだ。

大学院在籍時に行った1年間の交換留学では、TOFEL のスコアを提出しなければならなかった。ヒアリングテストの点数がすごく悪く、合計点の足を引っ張った。留学先(カリフォルニア大)の定める TOFEL の基準点数をクリアできるまで、何度も受け直した(もちろん、テスト対策は真面目に行いつつ)。受験料が結構高いので、金銭的に辛かったなぁ。

読む、書く、聴く、話す。

この中では「読む」のが最も得意(あるいはマシ)である、という日本人が多いだろう。「聴く」と「話す」は、近年では YouTube やネット上での英会話レッスン、友達作りのツールなど、色々な上達手段がある。ただ、伝統的には、外国人と日常的に出会う環境を作るとか、海外に住むとかしない限り(あるいは、海外に住んでても)なかなか地力がついてこない。私はアメリカに1年住んだことがあり、イギリスに3年住んでいる。ところが、アメリカの1年だけでも「聴く」と「話す」が格段に良くなったのは確かであるものの、今なお「聴く」と「話す」は十分でない。「話す」は本当に頻繁に間違える。「聴く」は職場でさえ、聴き取れる相手と聴き取れない相手の差異が大きく、聴き取れない相手は結構たくさんいる。一体、何年かかったらよくなるのか!??

英語を「読む」、「書く」にはあまり不自由しないけど「聴く」、「話す」には今でも不自由している。それが自分の状況だと思ってきた。理系研究者は特に、熟達するほどそういう傾向があるかもしれない。

ところが、15年以上持ち続けてきたこの考えは、どうやら大間違いであることに最近気づいた。

読むのが圧倒的に遅いのである。

自分が英語を読むスピードや語彙量は、海外に何年も住んでる日本人(研究者含む)と比べて多分遜色ない、というか、正直言って比較的自信がある。ところが、ネイティブの人は、読むスピードが圧倒的に速いのだ。ネイティブの人と一緒に仕事をすると分かる。ネイティブの人との仕事は15年程度してきた。でも、今まで気にしてなかった。ところが、よく観察してみると、彼らが読むのは圧倒的に速い!

私たちはネイティブよりも語彙量が少ないことが理由なのではない。確かに程度問題だが、あるレベルに達すると、知らない単語がちょこちょこ出てきても、意味を類推しながら読めるし、無視しても理解に差し障りない。それがために、スピードや理解度が落ちるほどではないと思う(ただし、知らない単語が多すぎると、スピードも理解度も落ちる)。仮に私が全英単語を知っていたとしても、自分が読むのはネイティブが読むよりも圧倒的に遅いだろう。

考えてみれば、当たり前。自分は英語の小説を1冊読むのに、ネイティブの3倍や5倍(もっとかも?)の時間をかけている。それだけのことだ。結局、研究上の文書を読むのにも、メールを読むのにも、20年の努力の賜物でスムーズに読めているようでいて、ネイティブより圧倒的に遅い。
なぜ、こんな簡単な事実を直視していなかったのだろう。
日本語だと速く読めて英語だと遅いということを、認めたくなかったのかもしれない。

仕事上、これはかなりまずい。同じ論文を読むのに3倍や5倍の時間がかかるのだから。

対策は...思いつかない。「聴く」と「話す」はまだ穴が多いので、この歳(41歳)になっても伸びしろがあると感じる。若いときの伸び率には劣るとしても。しかし、今から「読む」速度を向上させるのは難しいと思う。随分読んできたわけだし。知らない単語はたくさんあるが、語彙量が問題なのではない。もちろん、頭の中で日本語に訳しながら読んではいない(これをしてはいけない、ということは色々な本に書いてある)。そういった基本をクリアし、英語(主に論文。たまに一般書)を20年読んできたのに、まだ及ばない。

若いころの大量な読書量。これに尽きるのかもしれない。
日本語でも同じ。
日本人でも、日本語を読むのが速い大人と遅い大人がいて、子どもの頃からの読書量は関係していそうだ。

私の長女は読書好きだ。日本語も英語も片っ端から本を読んでる。新しい本が家に届く度に誰の本にでもチェックを入れている。
「イギリスで育つと英語が母語になっていいね」という発言の含意は、日本では、特に「聴く」と「話す」について強調されている気がする。しかし、隠れた強みは「読み」力。小学生の本とはいえ、長女は 100ページ、200ページの字が詰まった本をがんがん読んでいる。知らない単語があっても関係ない。これは強い。